永住許可に「日本語要件」を追加する改正の意図と課題
1 背景:なぜ要件見直しが検討されているのか
日本への長期的な滞在者は増え続けており、永住者数も増加傾向にあります。こうした状況を受け、政府は「地域社会との共生」「日本社会への本格的な統合」を永住許可制度の重要課題として位置づけ、要件の見直しを進めています。
ポイントは次のような観点です。
①言語と社会参加:日本語能力を一定程度求めることで、地域社会との円滑なコミュニケーションを促進する狙い。
②制度の適正化:永住許可の条件を見直すことで、単なる在留年数クリアだけでなく、社会的な統合度合いを評価する方向へ。
③共生社会の実現:社会保障・教育・地域活動など多様な場面での参加を期待するという政府方針。
この方向性は、国内政策討議や政党・与党内の提言などでも言及されており、地域社会との共生の観点を重視する声が強まっています。
2 検討されている「日本語要件」の内容(概要)
① 日本語能力
従来から、帰化の場合、一定の日本語能力(※およそ小学校4年生程度)が必要とされていました。
しかし、永住ビザの場合、日本語要件はなく、極端に言えば、全く日本語はわからない方でも永住許可を得られています。
しかし、政府は、永住許可の申請者に一定レベルの日本語能力を要件にする方向で検討しています。
具体的な能力水準(JLPT N2程度か、それ以上か)はまだ確定していませんが、永住後の生活や社会参加を見据えた要件設定が議論されています。
ただ、在留期間のある経営管理ビザでも本人もしくは常勤従業員がJLPT N2以上の日本語力を求める以上、これとの均衡から、N2~N3レベルは必要になるのではないかと予想はしています。
②日本語要件の狙いと効果例
a.日常生活での意思疎通が可能
b.行政手続き・医療・教育現場での言語的自立
c.地域社会への実質的な参画
② 長期在留の品質向上
すでに現行の永住許可基準には、
a.素行が善良である
b.独立した生計能力
c.日本国の利益に合う
などの要件があります。
これに加えて「日本語力」などの生活基盤の質的基準を新たに盛り込むことで、単なる在留年数だけでなく生活統合の実態も評価する方向です。
3 追加要件へ向けた課題と懸念
● 要件の明確性と公平性
日本語能力については、
①評価基準をどのレベルにするか
②どうやって証明するか(日本語試験、面接など)
といった具体的な制度設計がまだ検討段階です。これらが曖昧なまま適用されると、実務上の混乱や審査の恣意性が生じる可能性があります。
● 日本語習得というハードル
在留者の背景は多様であり、高齢者、子育て中の外国人、働きながら学習している人など、学習機会・成果が大きく異なります。単純に言語スコアの点数制にすると、社会参加の質を過度に数値化してしまうリスクがあります。
4 ほかの永住制度見直しと関係する改正
今回の日本語能力要件検討は、永住審査全体の見直しの一部です。同時期に議論されているものとして、
①永住資格の取消事由の新設・拡大
(税・社会保険料不納付、法令違反などで、永住権を失う可能性を法制化する方向の議論)
②在留資格期間やポイント制などの要件系見直し
※この点は行政運用や政策検討で複合的に進行しています
などがあり、永住許可の「入口」と「出口」両面の制度改善議論と連動していることに留意が必要です。
5 実務者・申請者への影響
1.永住ビザ 申請戦略の見直し
従来からあった在留年数、生計要件、善良な行いに加えて「日本語能力」が求められる可能性があるため、申請前に言語学習計画・証明手段の検討が重要になります。
2.書類準備と審査対応
日本語能力を証明する公式な試験結果(JLPTや日本語検定等)が要件になれば、試験日程・スコア取得計画が永住申請戦略に組み込まれます。
3.既存永住者への影響
新要件は通常、申請・審査の枠組みに対する規定変更であるため、既に永住者である人への直接的な逆適用は基本的に想定されません(ただし別途取消事由や義務の遵守基準については議論があります)。
6 今後の見通しとポイント
政府は要件の詳細を2027年4月頃の制度施行に合わせて固める方針と報じられています。
国会審議・有識者検討会等でフレームが確定する見込みです。
永住申請の現場では、「言語」「生活統合」「制度的義務」のバランスをどう審査基準に落とし込むかが大きな焦点になります。
総括
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 要件追加の趣旨 | 地域社会との共生・生活統合を強化 |
| 検討中の要件 | 日本語能力の水準化・証明 |
| 影響 | 永住申請者の準備負担増/戦略見直し |
| 課題 | 公平性・実務運用の明確化 |


