経営管理ビザの改正で日本語能力要件の新設?
近年、日本における外国人起業家や投資家の受け入れは、経済成長戦略の一環として強く推進されてきました。その中心的な在留資格が「経営・管理ビザ」です。このビザは、外国人が日本で会社を設立し経営を行う場合や、既存企業の管理職として経営判断に携わる場合に付与されます。これまでは、資本金要件や事務所設置要件、事業計画の実現性などが審査の中心でした。
しかし、2025年の改正では、新たに「日本語能力要件」が明確化されることとなり、従来にはなかった言語スキルの評価が導入されます。
9月11日の朝日新聞の記事によれば、
外国人が日本で起業する際に必要な在留資格「経営・管理」の要件について、出入国在留管理庁は、申請者か常勤職員のいずれか1人に、「相当程度の日本語能力」を求める方向で最終調整に入った。
とのことですので、現時点では未確定要素があるものの、本稿では、この改正の趣旨や背景、具体的要件、そして実務上の影響について、詳しく解説します。
但し、現時点(2025年9月11日時点)では未確定の情報であり、また筆者の主観もありますので、その点ご理解の上読み進めてください。
経営管理ビザ改正の背景
1.日本社会の変化と国際化
これまでの経営・管理ビザ制度は、日本における外国人起業家誘致を重視してきました。その結果、毎年一定数の外国人が日本で会社を設立しています。しかし、事業継続率を見ると、3年以内に廃業するケースが多いという課題が浮き彫りになっています。原因としては、
①日本語による契約交渉や取引先との調整が困難
②労働法制や税務制度の理解不足
③地方自治体や金融機関との連携に支障
といった「言語の壁」に起因する問題が少なくありませんでした。
2 .経営管理ビザ改正の狙い
そこで政府は、単に資金やオフィスを用意できることだけでなく、日本語で最低限のコミュニケーションを行える能力を持つ人材を優先的に受け入れる方針へ転換しました。これにより、実際の経営活動が円滑に進み、地域社会との共生も図れると期待されています。
経営管理ビザ改正後の日本語能力要件の内容
1 要件の水準
では、今回の改正で導入される日本語能力要件は、どの程度なのでしょうか。
上記の朝日新聞の記事によれば、
6段階ある国際基準のうち、上から3番目の「B2(中上級者)」相当を求める。日本人の常勤職員を雇用してもいいという。
とされており、日本語検定でいうと、これは日本語検定2級レベルであり、かなり高度な日本語力を要求されます。
参考:日本語のレベル対応表
国際的に広く活用される「日本語能力試験(JLPT)」を基準とすると、想定される水準は緩めに見積もっても少なくとも以下の通りとなりそうです。
最低基準:JLPT N3 程度
→ 日常会話や基本的なビジネス会話が可能なレベル。
推奨基準:JLPT N2 以上
→ 社内外での会議、契約内容の理解、行政手続きへの対応が可能。
ただし、必ずしも全ての申請者に高い日本語力を要求するのではなく、申請者の事業規模や役割に応じて柔軟に判断されると見込まれます。
2.代替的証明方法
JLPTのスコア以外にも、以下の証明方法が認められる可能性があります。
①日本の大学・専門学校での卒業証明書
②日本国内での長期就労歴(例:技術・人文知識・国際業務ビザで5年以上勤務)
③日本語教育機関での修了証明
これらが仮に認められる場合、実務経験を通じて日本語を習得してきた外国人にも門戸を開きます。
経営管理ビザ改正後の日本語能力要件の実務への影響
① 外国人起業家への影響
従来、資本金を用意し、オフィスを借りれば比較的スムーズに許可されていたケースが、改正後は言語要件でつまずく可能性があります。特に、日本語を全く話せずに「通訳者に依存」して経営を行おうとする場合、許可のハードルが高くなるでしょう。
②行政書士・専門家の役割
経営・管理ビザの申請を支援する行政書士や専門家にとっても、申請者の日本語能力をどのように立証するかが新たな業務ポイントとなります。証明資料の収集や日本語学習支援の提案が重要になります。
③ 既存の在留者への経過措置
すでに経営・管理ビザを取得して活動している人については、即時の更新拒否は避けられる見込みです。ただし、更新の際には「ある程度の日本語能力の向上」が求められる可能性があります。そのため、既存の経営者も継続的な日本語学習が必要です。
経営管理ビザ改正で日本語能力要件を課す利点と課題
①利点について
日本の取引先・金融機関との信頼関係が築きやすい
従業員との労務管理が円滑になる
地域社会との交流が深まり、事業継続率が向上
② 課題について
起業家候補の中には、日本語力不足で挑戦を断念する層が出る
英語を公用語とするグローバル企業にとって、日本語要件は障壁となる
「形式的な資格取得」に偏り、実務で使える会話力が伴わない恐れ
今後の展望
今回の改正は、日本が「質の高い外国人起業家」を受け入れる姿勢を示す一方で、国際競争力とのバランスも問われます。シンガポールや香港など他国は英語でのビジネスが可能であり、外国人にとっては参入しやすい環境です。日本語要件を設けることは、日本特有の制度・文化に根ざした合理的措置ではありますが、国際比較においては慎重な運用が求められます。
また、デジタル化の進展により、AI翻訳や同時通訳ツールが普及する中で、将来的に「機械翻訳を補助とした経営活動」が認められるかどうかも議論の余地があります。
総括
2025年の経営・管理ビザ改正で導入される日本語能力要件は、外国人起業家にとって新たなハードルであると同時に、日本での事業成功に不可欠なスキル習得を促す契機となります。最低限の日本語を身につけることは、ビジネスの現場で大きな武器となり、地域社会との共生にもつながります。
日本が真にグローバルなビジネス拠点として発展するためには、「日本語力の確保」と「国際競争力の維持」のバランスが求められます。今回の改正をきっかけに、外国人起業家がより現実的かつ持続可能な形で日本社会に根づくことが期待されます。
当事務所では、日本進出をお考えの外国人起業家の方のため、ビザ申請についての相談を承っておりますので、お気軽にご相談ください。