経営管理ビザの資本金要件が3,000万円に引き上げへ

2025年、法務省が打ち出した出入国管理制度の見直しにより、経営・管理ビザ(経営管理ビザ)の取得に必要な資本金要件が、従来の500万円から3,000万円に大幅に引き上げられる方向で検討されています。また、上記の資本金要件に加え、「1名以上常勤職員の雇用」も必須要件にする予定のようです。これは、日本での外国人起業に対する姿勢の転換を示すものとして注目を集めています。

この記事では、この制度変更の背景とともに、現場での実務的影響、そして今後必要となる対策について整理します。

経営管理ビザの資本金引き上げの背景

経営管理ビザは、外国人が日本で会社を設立・運営するために必要な在留資格であり、これまでは「資本金500万円以上」または「常勤職員2名以上の雇用」が要件とされていました。

この制度は、多様な外国人起業家の呼び込みに寄与してきましたが、近年は以下のような課題が指摘されていました。

①ペーパーカンパニーの乱立

→実体の乏しい法人が経営管理ビザ取得目的で設立されるケースが増加。

②税務・社会保険未加入の経営者の存在

→「ビザ取得のみ」を目的とし、適切な運営実績や納税実態がない事業体も多くありました。

③技能実習・特定技能制度との整合性

→一部で技能実習生の「転籍先」として名目上の会社設立が行われている実態も指摘されています。

これらの背景から、制度の信頼性向上と外国人労働者の適切な保護の観点から、審査基準の厳格化が求められたのです。

経営管理ビザの資本金が3000万円に引き上げられることによる実務的影響

■ 実務的な影響①:外国人起業家のハードルが大幅上昇

最も大きな影響は、新規に経営管理ビザを取得しようとする外国人起業家にとっての資金的ハードルの上昇です。

500万円であれば、比較的短期間の準備で対応可能な額でしたが、3,000万円となると、多くの外国人起業家にとって現実的ではないです。

日本での事業経験がない者にとっては、銀行からの借り入れ等は難しく、資金の調達手段が限られてしまいます。そのため、スタートアップや小規模ビジネスモデル(例:飲食、貿易、通訳・翻訳業)では、事業規模と必要資本金に乖離が生じます。

この変更により、「本当に事業をしたい」外国人起業家まで門前払いされる可能性があり、地域経済への多様な貢献が失われる恐れもあります。

■ 実務的な影響②:既存の経営管理ビザ保持者への更新審査が厳格に

→この制度改正が既存の経営管理ビザ保持者の更新審査にも波及する可能性があります。

現状では、更新時の資本金再確認はされないため、当初500万円の資本金で設立した会社で経営管理ビザを取得した場合、3000万円に増資しないと更新は認めない、ということは恐らくはないと予測しています。

一方、現在でも更新申請の際に「事業実体があるか」「収益が確保されているか」「納税実績があるか」はチェックされております。

今後は、資本金要件が引き上げられることを踏まえ、既存者に対しても「実質的な経営能力・資本力」が問われるケースが増えるかもしれません。

■ 実務的な影響③:行政書士・税理士・司法書士・弁護士への影響

→ビザ関連業務を扱う行政書士・税理士・司法書士・弁護士業界にも影響が及ぶと見られます。

①顧客層の減少:多くの行政書士事務所、税理士事務所の顧客は中小企業です。個人ベースの小規模起業家の新規参入が減少し、案件数が減る可能性があります。

②対応の高度化:単なるビザ取得支援から、資本増強のための資金調達、法人運営、税務計画までのトータル支援が求められるようになります。

③共同支援スキームの構築:資本の増強のため、銀行・ベンチャーキャピタル・投資家との連携も鍵となります。

■ 今後の対応策と留意点

① 3,000万円資本金の代替措置があるかの確認

→現行制度では、「常勤職員2名以上の雇用」により資本金要件を代替できます。今後も同様の例外措置(雇用要件、投資家の推薦など)が残る可能性があり、制度設計の最終発表を注視すべきです。

② スモールビジネス向け支援制度の整備要望

→地方自治体や商工会などが主導する外国人起業支援スキーム(例:補助金、インキュベーション施設)の整備も、政策提言の余地があります。

③ 資本金の出資構造の工夫

→外国人単独での出資ではなく、日本人との共同出資、VC(ベンチャーキャピタル)投資の活用など、調達スキームの多様化が求められます。

総括

今回の制度改正は“選別”の時代への移行を意味します。

今回の資本金要件引き上げは、単なる数字の変更にとどまらず、外国人起業家への選別基準が厳格化された象徴とも言えます。

一方で、資金力に乏しくとも将来性のある起業家をどう育成・支援していくかは、日本の経済・地域活性化にとって重要な課題でもあります。

行政・士業・支援機関が連携し、「持続可能な外国人起業支援体制」を再構築することが求められているといえるでしょう。

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